STORY
『蛇』より抜粋: 夢
薬効は夢をみる。夢は悪夢とも呼ばれる。副作用は夢を忘れる。白い薬がたくさん。あたり一面がまっ白。寝ころんでる。起き上がると白い砂のよう。踏みしめると白い雪のよう。どこまでも遠くまで白い。空までも白いよ、あれは雲なのか薬なのか。薬の雲が薬の雨を降らすかもしれないね。ぱらぱら。ちょっと痛い。雨、降ってこない。歩いていこうか、どこへ? それともまた寝ころんでいようか。倒れ伏して泳ぐ。薬に溺れそう。小さな白い薬ひとつひとつが夢を生むんだね。いくつもの夢を。ここは夢の海。さあ、航海へ出ようか、船長は誰? まだ見ぬあの遠い遠い白い海のかなたへと出発しよう。冒険さ、あの海の向こうにあるのは、きっと、新薬。かもね。海賊でも構わない。どくろの黒旗をかかげ、頭に布を巻いて、相手構わず襲いかかろう。ほら、戦いの準備だ、急いで! 湾曲した剣に、短銃、火薬に、砲弾に、大砲だ。撃て! 硝煙の匂い。船の先には鋭い武器をつけて、敵の船腹に突き刺せ。浸水だ、沈没する。生きて辱めを受けるか、抵抗して死ぬか、選べ。剣を振りかざし叫ぶ。金銀財宝はすべて運び込め、ひとつ残らずさ。皆殺しになんかしたりしない、そんな意味のないことはしない。みんなまとめて海に放り込む。だいじょうぶ、この海域にさめなんかいやしない。薬に溺れていれば、きっといつかどこかの船が助けてくれる。たぶん、だけどね。別に、薬に溺れたって溺死なんかしない。夢をみるだけ。そうして夢をみ続けてるうちに、やがては船が通りかかるだろう。それが夢のなかでか、どうかは、知らないけれど。構わないだろう、どっちだって? どうせ大差ない。見なよ、ついに船は金銀財宝で満ちた。どこかの港に停泊して一晩中騒ごうか、それとも、秘密の孤島に宝を隠しにいく? もちろん、秘密の孤島。酒にも食事にも用はないんだ、薬があればじゅうぶんさ。このまま、航海を続けよう。まずは、なにをおいても秘密の孤島。海図はまっ白。もちろんのこと。なにもかも秘密だからね。そう、なにもかも秘密さ、この海は。突然大嵐がやってきたってちっとも不思議なんかじゃない。空は白く晴れてたとしてもね。船はたちまち大渦に巻き込まれる。津波、竜巻、雷雨、白い薬がそこらじゅうに舞い散らばる。いまこそ船の危機だ、決断に迫られる。ありったけの金銀財宝を海に放り捨てて、少しでも船を軽くするか、あくまでこのまま耐え忍ぶか。帆が裂け、帆柱が折れる。船は渦のなかでくるくるとまわる。くるくるくるくると。まるで夢を見ているよう。金銀財宝を放り捨てるとたちまち船は軽くなり、大渦から逃れる。金銀財宝はみんなまとめて白い海の底深く沈んでしまった。海賊船は難破船に早変わり。帆はなく舵もない。あてもなく漂う、薬の海を。いつかきっとどこかの船が通りかかって助けてくれるだろう。それが夢のなかでか、どうかは、知らないけれどね。
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